VCから出資を受けるスタートアップが注意したい投資契約のポイント

VC(ベンチャーキャピタル)からの投資を受けようとすると、投資家との間で投資契約を結ぶことになります。

初めてVCから出資を受ける場合、投資契約について詳しく知らない方もいると思いますが、なんとなしに契約してしまうと、将来的に契約内容が足枷となって事業運営に支障が出ることもあります。

そこで本記事では、ベンチャーキャピタルからの資金調達を検討している経営者の方へ、投資契約の内容から注意しておくべきポイントを分かりやすく解説しました。

そもそもVCとの投資契約とは?役割や目的は?

投資契約は、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などの投資家と投資先の企業及び経営者間で締結される投資内容や投資後の取り決めに関する契約書のことです。

そもそも投資契約は、会社法上は必要なく株式を発行するために必須のものではありません

しかし、株式公開(IPO)や買収(M&A)による株式売却によって売却益を得ることを目的としたベンチャーキャピタルにしてみれば、預けた資金をしっかりと目的のために使ってくれるかある程度の約束をしてもらう必要があります。

特にVCは、エンジェル投資家と違い、第三者からお金を集め、それを投資資金としているので、投資先のベンチャー企業と意見をすり合わせることが特に重要になります。

そこで経営陣と投資家の間の利害関係を予め調整するためのものが投資契約です

投資契約は、通常VC側から提示されることが多く、調達側のベンチャーに一定の制約が発生します。

契約書には専門用語などが並び難しい印象を受けるかもしれませんが、VCとの付き合いは長期間にわたります。

後々になって「こんなこと契約しなければ・・・」と後悔しないよう最初にしっかり内容を確認し、必要があれば弁護士などの専門家の助けを得ることも必要です。

投資契約の主な内容と経営者が気を付けるべき点

投資契約の内容はケースバイケースですが、構造は大きく以下の5つに分類されます。

  1. 株式募集に関する条件
  2. 投資の前提条件
  3. 会社運営に関する条件
  4. 株式に関する条件
  5. 投資撤退に関する条件

それぞれの詳細を解説します。

①:株式の募集内容に関する条件

株式募集に関する以下の内容が盛り込まれます。

  • どのような種類の株式を何株発行するか
  • 株価はいくらか
  • VCは何株分引き受けるのか
  • 今回の株式発行で全体で何株になるか
  • ベンチャーキャピタルが全体の何%を保有するか

②:投資の前提条件

ベンチャーキャピタルに提出した財務諸表などの資料に誤りがないことを投資家に対して表明して保証する事項(表明保証)や、払込期間までに想定外の事象が発生していないことなどを払込条件とするといった内容が盛り込まれます。

とくに表明保証条項については、言葉の意味を正確に捉える必要があります。

たとえば、「提出された財務諸表は、一般に公正妥当と認められた会計基準に準拠して作成されている」といったことがよく書いてあります。

しかし、設立してから自分達で適当に帳簿をつけていて、こんなことを保証するのは極めて危険です。

公認会計士や税理士の指導も受けずに完璧な財務諸表が作れるわけがないわけで、そうした会計の専門家のチェックを経ていない場合には、「重要な点にいおいて誤りはありません」くらいに弱めて書いておいた方が、実態に合うことが多いのではないかと思います。

(引用:「起業のファイナンス 投資契約と投資家との交渉」より)

上記のようなケースも踏まえて、文言をしっかり確認する必要があります。

③:会社運営に関する条件

会社運営における条件には、以下のような内容が盛り込まれます。

  • 上場努力義務・・・「上場等に向けて最大限の努力をする」といった条項。あくまで努力義務なので違反してもペナルティはありません。自発的な努力を促す項目といえます。
  • 役員の派遣・・・投資先企業の状況をモニタリングするため、取締役会にオブザーバーを派遣するなどの取り決め。
  • 事前承諾条項・・・会社の重大事項に関して事前に投資家の承諾を必要とする条項。事前承諾に必要な範囲が広くなりすぎると、経営の自由度がなくなるので注意が必要です
  • 情報開示請求条項・・・経営状況に関する資料を求められた時に応じることとする条項。

④:株式に関する条件

株式に関する条項には、以下のようなものがあります。

  • 優先引受権・・・投資先企業が追加で株式発行をする際に優先的に投資家が引き受けることができる権利。将来の時価で追加出資してくれるのは悪いことではありませんが、あくま権利であり義務ではない点に注意が必要です。
  • 先買権・・・株主が保有している株を売却する際に別の株主が優先的に買える権利。VCが株を売却する時にまず経営者や経営者が指定する第三者が買えるようにしておくことができる。
  • 共同売却権・・・株式売却時に「社長が売る時にはVCも一緒に売る」と定めて、投資先企業が買収交渉を行う際にもVCの持ち株を一緒に引き取るようにコミットさせる権利。

⑤:投資撤退に関する条件

投資撤退時の条件として最も注意するべきなのは、「株式の買取条項」です。

これは「いつまでに上場または売却できない場合には、会社と社長が連帯して株式を買い取らなければいけない」とする条項です。

買取価格も将来価値で換算されているので非常に高額になるケースが多いです。

こちらに対する対処としては、交渉の過程で削ってもらうか、もしくは上場できない、ではなく努力義務を果たさない場合などの表現にしてもらうよう修正をお願いしてみることです。

内容が気になったら専門家に相談するか、読み合わせしてみる方法も

もし投資家から提示された投資契約について少しでも引っかかることがあれば、スタートアップ専門の支援をしている士業事務所で無料相談してみても良いと思います。

また、ベンチャーキャピタルの担当者と一緒に読み合わせをしながら、引っかかった部分を都度質問していくのもおすすめの方法です。

これから長い期間一緒に事業運営を共にしていく間柄になるので、出来るだけ不安要素は払拭して良好な関係でスタートを切れるといいですね。

また、中には、投資を受ける側との情報格差を利用してアンフェアな投資契約を結ぶところも少なからずあるようです。

ぜひ本記事を参考に、内容をしっかりとチェックしてみてください。