資本性ローンとは?メリット・デメリットや利用条件を紹介

日本政策金融公庫の資本性ローンという融資制度をご存知でしょうか。

創業融資などと比べて知名度には劣る借入制度ですが、実はこの資本性ローン、ベンチャー・中小企業にとって大変魅力的な制度なんです。

ここでは資本性ローンの制度内容からメリット・デメリット、実際の利用企業の声などを分かりやすくご紹介していきます。

創業したての企業経営者や成長ベンチャーの社長の皆さまはぜひチェックしてみてください。

【関連記事】日本政策金融公庫の中小企業経営力強化資金とは?メリット・デメリットと申請条件

資本性ローン・劣後ローンの意味を知ろう

日本政策金融公庫の資本性ローンの特徴や制度内容をご説明する前に、まずは資本性ローンと劣後性ローンという言葉の意味を理解しておきましょう。

資本性ローンは負債にならない借入

資本性ローン(資本性借入金)とは、新規事業や事業再生をおこなう企業のサポートを目的とした融資制度の1つです。

借入期間中は利息の支払いのみで、一定期間元本の返済は必要ありません。期日がきたら一括で返済します。

また、通常融資(借入)は会計帳簿上は「負債」とみなされますが、実はこの資本性ローン、借入金を負債ではなく「資本」とすることができるのです。

金融機関(民間銀行・政府系銀行・ノンバンク)から借入を行う際、帳簿の負債額や資産に対する割合は非常に重視されます。

負債が多ければ、積極的に資金を融資しようとは考えません。

しかし、資本性ローンであれば、更に追加融資を受けたい場合も会計上マイナス評価を受けることがありません。

劣後ローンは回収優先度が低い

劣後ローンは他の負債よりも回収の優先度が低いローンのことをさします。

実は、資本性ローンは劣後ローンになります(資本性劣後ローン)。

お金を借りていた企業が倒産した場合、残った債権の回収には順番が決まっています。

例えば、未払いの税金などの租税債権や従業員への給与債権は回収優先度が高くなります。

劣後ローンは、この回収優先度が後回しにされるローンなので、金融機関からすると不良債権になる可能性が高いローンとなるのです。

そのため、資本性劣後ローンなどは借入期間が長期間で設定されており、貸す側もなるべく長く利息を支払ってもらえるようになっています。

資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)の内容・特徴

日本政策金融公庫からは「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」と呼ばれる制度が提供されています。

その名の通り、新規事業展開・海外展開・事業再生などに取り組む企業の財務基盤強化を目的とした融資制度です。

資本性ローンの概要

新規性や成長性が見込めるビジネスを行う創業期のスタートアップ・ベンチャーや事業再生中の中小企業向けの資本性ローンです。

無担保・無保証で利用ができ、事業成績によって1年ごとに金利が見直しされる点が特徴です。

融資実行後には、四半期に一回の経過報告が必要になります。

日本政策金融公庫の資本性ローンは、

  1. 国民生活事業・・・融資限度額4,000万円
  2. 中小企業事業・・・融資限度額1融資先あたり3億円

の2種類あります。

ざっくりくくると、国民生活事業は創業期のベンチャー向け、中小企業事業は一定規模以上の企業向けです。

国民生活事業の資本性ローン利用条件

【ポイント】

  • 新たな事業を始める人や事業開始間もない人が対象
  • 業績に応じた金利設定
  • 借入金は金融検査上、資本とみなす

【融資の適用条件】

項目 詳細
対象者
  • 技術・ノウハウ等に新規性が見られる方(特許権など知的財産権を利用して行う事業など)
  • 経営多角化・事業転換を図る方etc
貸付限度額 4,000億円
返済期間 最短5年1ヶ月から最長15年
返済方法 期限一括返済
担保・保証人 無担保・無保証
金利 直近決算に応じた1年ごとの金利見直し
融資条件
  • 審査時には事業計画書が必要
  • 税務申告を1期以上行なっている場合、税金を完納している必要がある
  • 四半期ごとの経営状況の報告が必要

【金利】※横スクロールができます

売上高減価焼却前経常利益率 貸付期間
5年1ヶ月以上7年以内 7年超9年以内 9年超12年以内 12年超15年以内
5%超 5.30% 5.60% 5.95% 6.20%
0%以上5%以下 3.15% 3.30% 3.50% 3.60%
0%未満 1.00% 1.00% 1.00% 1.00%

中小企業事業の資本性ローン利用条件

【ポイント】

  • 雇用の創出・地域経済の活性化に貢献できる事業を行なっている方
  • 業績に応じた金利設定
  • 限度額は1融資先あたり3億円

【融資の適用条件】

項目 詳細
対象者 雇用創出、地域社会にとって不可欠な事業、技術力の高い事業などに取り組む方
貸付限度額 1社あたり3億円
返済期間 5年1ヶ月、7年、10年、15年
返済方法 期限一括償還
担保・保証人 無担保・無保証
金利 直近業績に応じて見直し
融資条件 公庫が適切と認める事業計画書の提出が必要

四半期ごとの経営状況の報告が必要

【金利(新企業育成貸付または企業活力強化貸付を適用した場合)】※横スクロールができます

売上高減価焼却前経常利益率 貸付期間
5年1ヶ月 7年 10年 15年
5%超 4.00% 4.65% 5.00% 5.45%
0%以上5%以下 2.70% 3.15% 3.40% 3.75%
0%未満 0.4% 0.45% 0.45% 0.45%

【金利(企業再生貸付を適用した場合)】※横スクロールができます

売上高減価焼却前経常利益率 貸付期間
5年1ヶ月 7年 10年 15年
5%超 5.30% 5.40% 5.45% 5.50%
0%以上5%以下 3.15% 3.25% 3.30% 3.35%
0%未満 0.45% 0.45% 0.45% 0.45%

資本性ローンの融資実績

日本政策金融公庫の平成28年度の取組み及び決算の概要によると、資本性ローンの融資実績は以下のような推移を辿っています。

26年度 27年度 28年度 前年比
先数 369 441 398 90%
金額 227億円 283億円 251億円 89%

日本政策金融公庫の資本性ローンのメリット3点

日本政策金融公庫の資本性ローンを活用するメリットは大きく以下の3つです。

  1. 融資期間中は元金返済の負担がない
  2. 業績が悪い時は金利負担が少ない
  3. 自己資本比率を高めることができる

詳しく解説します。

メリット①:融資期間中は元金返済の負担がない

資本性ローンは、期限一括返済方式なので、期日がくるまでは利息のみの支払いしか発生しません。

元金返済分の負担がない分、それらを投資に回すことも出来ます。

創業したてでまだ黒字化できていない会社や投資に事業資金を回したいベンチャー企業にとって、月々の返済負担が低く抑えられるのは大きなメリットです。

メリット②:業績が悪い時は金利負担が少ない

前述した通り、資本性ローンの金利は業績に応じて毎月見直しがされます。

赤字の場合には、金利負担はわずか1%(国民生活事業の場合)ですみます。

銀行融資の利率が3%前後、日本政策金融公庫の他の融資制度でも金利2%前後であることを考えると、どれだけ負担が少ないかが分かります。

メリット③:自己資本比率を高めることができる

資本性ローンによる借入は、負債にならず、資本にできます。

通常の融資では、負債が増えて自己資本比率が減るため、追加融資などの際に金融機関の評価が下がりますが、資本性ローンではその心配はありません。

むしろ、自己資本比率が高まることによって財務基盤の安定化が図れるのです。

日本政策金融公庫の資本性ローンのデメリット2点

日本政策金融公庫の資本性ローンを活用する際の留意点を2点ご説明します。

  1. 業績が好調な時は金利負担が大きい
  2. 繰り上げ返済は原則出来ない

詳しくみていきましょう。

デメリット①:業績が好調な時は金利負担が大きい

業績が悪い時には金利負担は少なくてすみますが、逆に業績が好調な時には、金利負担が高まります。

国民生活事業の資本性ローンでは、高いと5%〜6%の金利が発生します。

その分、総返済額も増加するので注意しましょう。

デメリット②:繰り上げ返済は原則出来ない

また、資本性ローンでは期限前の返済は原則出来ません。

資本性ローンは、劣後ローンのため、公庫からすると回収見込みが低い貸し出しになります。

そのため、そのリスクを公庫が負う代わりに、基本的には長期借入を前提として利息収入を得る仕組みになっているのです。

資本性ローンが適用される事業・サービスとは?

資本性ローンでは、主に新規性がみられるビジネスを手がける人が対象となっていますが、具体的にはどのような事業で申請が通過するのでしょうか。

公庫のHPで資本性ローン利用企業として紹介されている株式会社スマイループスの事業内容をみていきましょう。

スマイループスは、2012年設立の会社で、主にチャット型の転職レコメンドアプリの開発を行なっています。

これまで転職活動では、転職サイトや転職エージェントを使うのが一般的でしたが、もっと気軽に転職相談ができるようにとチャット形式のアプリを提供しています。

既存事業領域であっても、従来と違った切り口のビジネスが評価されていたのではないでしょうか。

実際にインタビューの中で、スマイループスの社長・仲子氏は、公庫の資本性ローンの面談では「事業の収益性だけでなく、新規性や将来性も真剣に聞いてくれた」と述べています。

スマイループスは当時、VC(ベンチャーキャピタル)から出資を受けており、株の希薄化を抑えつつ資金調達を考えていたところ、資本性ローンがぴったりだったいうことでした。

資本性ローンまとめ

この通り、資本性ローンは、これからチャレンジをしていく中小・ベンチャー企業の経営者にとってとても有益な資金調達の方法です。

自分が資本性ローンを利用できるか気になる方はお近くの公庫支店や融資に強い税理士などに相談してみてください。