会社を辞めて独立・起業を考えている方にとって、資金調達は重要な問題です。
サラリーマン時代に貯めた自己資金でスタートしたり、親や親族からお金を借りたり、中にはVC(ベンチャーキャピタル)から出資を受ける方もいるでしょう。
数ある創業フェーズの資金調達の中でも特に多くの方に利用されているのが「日本政策金融公庫」の創業融資です。
一般的に民間銀行の融資には、2期分の決算書(確定申告書)が必要になるので、創業したばかりの会社はいわゆるプロパー融資を受けることが出来ません。
しかし、公的金融機関である日本政策金融公庫の創業融資を使えば、実績がない会社でも融資を受けることが出来るのです。
今回は、公庫の創業融資の1つ「新創業融資」の制度内容や注意点、審査のポイントをご紹介します。
新創業融資は無担保・無保証で借りられるお得な制度
新創業融資は、日本政策金融公庫の国民生活事業が提供している制度です。
「新規開業資金」「女性・若者/シニア起業家支援資金」などの創業融資を受ける時の無担保・無保証の特例措置のことを指します。
これから事業を始める方や事業開始まもない方を対象にした制度で、最大の特徴は、「無担保・無保証」で融資が受けられる点です。
代表者保証がつかないので、万が一会社が倒産しても社長に返済義務は発生しません。
詳細な条件は後述しますが、創業から2年以内の会社を対象に無担保・無保証で最大3,000万円(運転資金と設備資金の合計)まで融資する、という内容です。
まだ経営実績がない中で借入が出来て、かつ代表者保証がつかないというのは都市銀行・地方銀行等では考えられません。ベンチャー・中小企業の活性化を目的としている公庫だからこその制度といえますね。
新創業融資制度の借入条件
新創業融資の詳しい利用条件をご説明します。
適用対象
まず公庫の新創業融資を受けるには、以下の3点を全て満たす必要があります。
- これから創業する方、または事業開始後2期経っていない事業者
- 「雇用を創出する事業を始める」方、「技術やサービスに工夫を加え、多様なニーズに対応する事業を始める」方、「現在の企業に6年以上勤務、または同じ業種に6年以上勤めている」方等のいずれかに該当する事業者
- 創業資金総額の10分の1以上の自己資金があること
2に関しては、上記でご紹介したもの以外に「産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」などの条件がいくつかあります。
気になった方は、日本政策金融公庫の公式ページを確認してみてください。
金利
新創業融資の金利は2019年9月時点では下記の通りです。表は横にスライドできます。
基準利率 | 特別利率A | 特別利率B | 特別利率C | 特別利率E | 特別利率J | 特別利率P |
2.51〜2.58 | 2.11〜2.18 | 1.86〜1.93 | 1.61〜1.68 | 1.11〜1.18 | 1.46〜1.53 | 2.31〜2.32 |
色々と書いてありますが、簡単にご説明すると、
- 基本は、年利2.51%程度(基準利率)
- その他個別の状況に応じて金利優遇あり(特利A〜P)
例えば、女性または35歳未満か55歳以上の方であれば、 女性、若者/シニア起業家支援資金が利用できます。
その場合、特別利率Aが該当し基準利率よりも0.4%ほど低い金利で融資が受けられます。
申込する際は、金利優遇が受けられないか公庫担当か、融資に強い税理士に相談してみましょう。
返済期間
返済期間は、各種制度で定める返済期間となっていますが、基本的には下記の通りです。
- 運転資金7年以内
- 設備資金20年以内
※いずれも据置期間2年以内
据置期間とは、元金返済が猶予される期間のことです。
その間は、利息のみの返済をすればOKなので負担が軽くなります。
返済期間が長く、かつ据置期間も利用できるのは創業時期には非常に助かると思います。
限度額
限度額3,000万円(うち運転資金1,500万円)
限度額は、運転資金と設備資金を合わせて3,000万円となっています。しかし、こちらは注意点がありますので次項で詳しく解説します。
日本政策金融公庫の新創業融資を申し込む際の注意点
メリット尽くしにみえる新創業融資ですが、いくつか利用にあたって注意点もあります。
利用を検討されている方は以下の3点に注意しましょう。
- 自己資金は希望額の3分の1以上あると良い
- 支店決裁の限度額は実質1,000万円
- 他の公庫制度と比べて利率が若干高め
注意点①:自己資金は希望額の3分の1以上あると良い
適用条件には、「自己資金は希望額の10分の1以上」とありましたが、実際には3分の1以上自己資金がある人が審査に通る確率が高いようです。
表上は、自己資金要件が高くないようにみえますが、公庫内部では自己資金は重要な審査ポイントの1つです。
もちろん、自己資金だけで合否が決まるわけではありませんが、少ないより多い方が良いに越したことはありません。
注意点②:支店決裁の限度額は実質1,000万円
限度額3,000万円とありましたが、実質的な借入限度額は1,000万円です。
というのも公庫には、支店決裁と本店決裁の2つのフローがあり。新創業融資の場合、1,000万円以上を超える決裁については支店ではなく、本店決裁になります。
本店決裁になると審査が段違いに厳しくなるので、創業時の会社が融資を受けられる可能性はほとんどありません。
つまり、現実的には支店決裁枠である1,000万円が借入上限になるのです。
注意点③:他の公庫制度と比べて利率が若干高め
同じ創業融資の1つである「中小企業経営力強化資金」や信用保証協会の保証付き融資と比べると金利が高めです。
参考までに、中小企業経営力強化資金の金利は2,26%〜(令和元年9月)。新創業融資の方が0.15〜0.2%程度利率が高くなります。
【関連記事】日本政策金融公庫の面談でよくある質問と注意点【対策必須】
新創業融資の審査通過するための5つのポイント
新創業融資の審査を通すために覚えておきたいポイントをご紹介します。
新創業融資だけではなく、他の公庫融資でも活かせる情報です。ポイントは以下5点です。
- 申請タイミングは創業前が狙い目
- 自己資金の出どころをハッキリさせる
- 未経験業種の場合は経験を積んでから
- 代表個人や家族の信用情報に注意
- 運転資金は月商3ヶ月分。設備資金は妥当性が重要
ポイント①:申請タイミングは創業前が狙い目
実は申請タイミングとして最も狙い目なのは、創業前です。
創業前と創業後の決定的な違いは、経営成績が出ているか出ていないか。
一度事業がスタートすれば、売上・利益の数字がハッキリ出てきます。そのため、創業後に融資を受ける場合は業績が指標の1つになります。
しかし、創業後、売上をあげて黒字化させるには平均6ヶ月程度は必要と言われています。
業績が悪い時にお金を借りに行っても金額は小さいか、最悪の場合融資不可という可能性もあります。
創業後の予期せぬ事態に備えて創業前のタイミングで借りるのが最も借りやすく、自分のためにもなるのです。
ポイント②:自己資金の出どころをハッキリさせる
日本政策金融公庫では、自己資金をどのように貯め方が重視されます。
自全く貯金がなかった人にある日突然大金が振り込まれている、いわゆる「見せ金」は通用しません。
最も良いのは、自分でコツコツ貯めてきたお金。
500万円全てを親からもらった人と、300万円でもコツコツ貯めてきた方であれば、後者の方が評価される可能性が高いです。
自己資金の多寡はもちろん重要ですが、「そのお金をどうやって作ったか」という点をハッキリさせておきましょう。
なお、夫婦共同経営をする場合は、次に生計を共にする配偶者の預貯金も有効です。
ポイント③:未経験業種の場合は経験を積んでから
未経験業種・業界で独立を考えている場合、最低1年程度はアルバイトなどでも良いので実務経験を積むのがおすすめです。
新創業融資の適用条件に前職と同じ業種での勤務経験が含まれているように、公庫は経験を非常に重視しています。
とくに業績が出ていない創業前のタイミングの場合、評価のポイントは、「自己資金と経験」です。
未経験から参入しようという熱い想いだけではなく、実践経験を踏んだ方が通過確率は上がります。
ポイント④:代表個人や家族の信用情報に注意
日本政策金融公庫の融資審査では、代表者の信用情報(CIC)が必ずチェックされます。
過去にいわゆるブラックリスト入りしてしまった人や滞納が多数ある方は、審査で引っかかる可能性濃厚です。
ただし、CICの情報保有期間は5〜7年なので、それ以前の事故であれば現在に影響はありません。
また家族共同経営の場合は、代表だけではなく配偶者などの信用情報も調べられる可能性があります。心配な人は事前にチェックしておくと良いでしょう。
【関連記事】信用情報の開示請求手順を説明!情報開示するデメリットはある?
ポイント⑤:運転資金は月商3ヶ月分。設備資金は妥当性が重要
どれ位の融資希望額が妥当か、というご質問がよくありますが、基本的には下記です。
- 運転資金・・・月商3ヶ月分
- 設備資金・・・平均的な相場であること
運転資金は、月商の3倍程度が目安になります。また、設備資金の場合は、相場から大きく外れた金額はNGです。
公庫の場合、民間銀行と違い、設備資金の契約前に融資を受けることができます。
また、契約前に料金交渉を行い、事前に提出した見積りより低い金額になってもOK。融通が効きやすいのです・
創業融資は、中小企業経営力強化資金がおすすめ
日本政策金融公庫の創業融資には、「新創業融資」と「中小企業経営力強化資金」の2つがあります。
中小企業経営力強化資金は、認定支援機関と呼ばれる専門家のサポートが申請の必須条件ですが、その分、条件的には新創業融資よりも好条件で借入できる可能性大です。
新創業融資の場合は、個人で申請を行うことができるので、自分一人で手続きしたいという方は新創業融資が良いでしょう。
専門家のサポートを受けながら、審査通過率を高めて融資額も伸ばしたいという人は中小企業経営力強化資金を検討してみてください。
詳しくは下記でご説明しています。
【関連記事】中小企業経営力強化資金のメリット・デメリットと申請条件【NG例あり】
日本政策金融公庫の新創業融資まとめ
今回は、公庫の新創業融資について詳しく解説しました。
無担保・無保証で活用できる新創業融資は、これから創業される方や立ち上げ間もない経営者にとって、ありがたい制度だと思います。
本記事でご紹介した注意点や審査のコツを抑えてぜひ資金調達を成功させてください。
【関連記事】日本政策金融公庫に審査落ちする理由は?断られた時の対応法