マル経融資(小規模事業者経営改善資金)は、商工会議所や全校商工会連合会の協力に基づいて実行される日本政策金融公庫の融資制度です。
マル経融資では、無担保・無保証、かつ、通常の公庫融資よりも低金利で借入ができます。
運転資金や設備資金の調達を検討している中小・ベンチャー企業等の小規模事業者にとっては大変魅力的な制度です。
今回は、マル経融資の仕組みや制度条件、審査の手続きまで徹底解説します。
融資をお考えの経営者・個人事業主(自営業)の方はぜひご覧ください。
商工会議所を活用した公庫のマル経融資とは?
マル経融資の仕組みをご紹介します。
マル経融資は、商工会議所等の経営指導員より経営指導を受けた法人や個人事業主(フリーランス)に対して、日本政策金融公庫が無担保・無保証で融資を行う国の制度です。
マル経融資には、以下の3名の登場人物がいます。
- 融資申請者(法人・個人事業主)
- 日本政策金融公庫
- 商工会議所・商工会
マル経融資の仕組みを順を追ってご説明します。
- 小規模事業者は、本社所在地の商工会議所へ経営相談を行います。必要な期間(6ヶ月以上)が経過したら借入申し込みができるようになります。
- 商工会議所等は、申し込みを受けたら公庫に事業者を推薦します。
- 推薦を受けた事業者に対して、公庫が無担保・無保証の融資を実行します。
上記の流れで融資が実行となります。
マル経融資の4つのメリット
商工会議所のマル経融資には、大きく4つのメリットがあります。
- 無担保・無保証で最大2,000万円融資
- 金利1%台の低利率で借入可能
- 商工会の経営指導員による経営サポート
- 地区によっては利子補給制度あり
詳細をみていきましょう。
メリット①:無担保・無保証で最大2,000万円融資
なんといってもマル経融資の最大の特徴は「無担保・無保証・最大2,000万円」の融資が受けられる点です。
借入期間も運転資金7年、設備資金10年以内と中長期で設定できます。
同じく無担保・無保証で2,000万円限度で受けられる融資としては、創業融資の1つである「中小企業経営力強化資金」が挙げられます。
メリット②:金利1%台の低利率で借入可能
さらに、マル経融資は金利1%台の低金利で借入ができます。
令和元年11月時点では、「年利1.21%(特別利率F)」が適用されています。
同じく無担保・無保証、2000万円で使える中小企業経営力強化資金は、年利2.26%〜2.34%なので、マル経融資の利率の低さが分かると思います。(尚、新創業融資の基準利率は2.56%〜2,85%、いずれも令和元年11月時点)
商工会議所等のお墨付きがあるから、その分金利も安く設定されているということですね。
メリット③:商工会の経営指導員による経営サポート
マル経融資を受けるには、商工会等の経営指導員による経営指導を原則6ヶ月以上受ける必要があります。
経営指導員というと堅苦しいイメージがありますが、ようは商工会の職員の方々が経営相談に乗ってくれるサポート制度です。
そのため、経営指導とっても高圧的なものではなく、2ヶ月に1回、指導員が経営者のもとを訪れて「困りごとはありませんか?」と手助けしてくれるフォロー的な体制となっています。
様々な業界・規模の会社の経営サポートをしてきた職員に、無料相談できるのはマル経融資の特徴といえます。
メリット④:地区によっては利子補給制度あり
金利1%台の低金利であることをご説明しましたが、なんと利用地区によっては、さらに市区町村から利子補給がでる場合があります。
ケースによっては金利1%未満で借入できる可能性もあります。一度、お近くの市区町村で利子補給をしているか確認してみましょう。
なお、本記事後半では東京都の利子補給制度を行なっている市区町村をご紹介しています。
マル経融資の利用条件
マル系融資の具体的な金利・限度額・返済期間・対象事業者・申請条件などを改めてまとめます。
限度額・返済期間・担保保証人
項目 | 内容 |
貸付限度額 | 2,000万円 |
返済期間 |
|
担保・保証人 | 不要、保証協会による保証も不要 |
なお、上記の限度額と返済期間は、2020年3月31日までの日本政策金融公庫受付分までとなります。
その後、条件が変更となる可能性がありますので注意してください。
金利・利率
マル経融資の金利は、固定金利です。
固定金利・・・借入当初から完済まで金利が変わらないタイプです。対して、変動金利は、経済情勢の影響などを踏まえて定期的に金利が変わります。
現在(令和元年7月時点)の年利は、1.21%です。公庫の金利は毎月更新されますので気になる方は日本政策金融公庫の主要利率一覧表から、最新の利率を調べてみてください。
資金使途
資金使途(融資の使い道)は、運転資金と設備資金で異なります。
- 運転資金
仕入資金、掛金、手形決済資金、給与・ボーナスの支払い、諸経費等の支払い
- 設備資金
店舗・工場改装、営業車両購入、機械・設備・什器等の購入
他の公庫融資制度と大きな違いはありません。
対象となる事業者【5つのポイント】
マル経融資(小規模事業者経営改善資金)が適用される事業者は、下記の全ての条件を満たす法人または個人事業主になります。
- 従業員20名以下の法人・個人事業主(宿泊業・娯楽業を除く商業・サービス業は5人以下)
- 商工会議所の経営指導を受け、経営改善に取り組んでいる
- 直近1年以上、同一会議所の地区内で事業を行なっている
- 商工業者であり、日本政策金融公庫の融資対象業種を営んでいる
- 税金(所得税、法人税、事業税、住民税)を完納している
対象外業種としては、風俗やギャンブル関連の業種、また最近では、仮想通貨関連事業は融資対象から外されています。
また、1年以上同一会議所の地区で事業を行なっている必要があるため、引っ越ししたてなどの状況だと融資が受けられない可能性があります。
ただし、東京23区等は同一管轄なので、区から区への引っ越しは問題ありません。
マル経融資申請の流れと必要書類
実際にマル経融資の申請の流れや必要書類を解説します。
申し込み時の必要書類【法人・個人】
【法人の必要書類】
- 直近2期分の確定申告書、決算書、勘定科目明細
- 試算表
- 借入金の返済明細表
- 法人税・事業税・住民税など各種税金の領収書または納税証明書
- 直近3ヶ月以内の登記簿謄本(現在事項全部証明書または履歴事項全部証明書)
- 設備資金を希望する場合、見積書や契約書等
【個人事業主(自営業)の必要書類】
- 直近2期分の確定申告書、決算書
- 直近の毎月の収支状況
- 借入金の返済明細書
- 所得税・事業税・住民税など各種税金の領収書または納税証明書
- 設備資金を希望する場合、見積書や契約書等
申請から融資実行までの流れと審査期間
マル経融資実行までの流れは以下の通りです。
【融資実行の流れ】
- 6ヶ月以上商工会の経営相談員から経営指導を受ける
- 経営相談員に推薦依頼を申し出る
- 商工会・商工会議所のマル経審査会で審査実施
- 日本政策金融公庫へ推薦
- 日本政策金融公庫の審査、承認後に融資実行
マル経融資は、商工会・商工会議所の経営相談員から半年以上経営指導を受ける必要があるため、経営指導から融資実行までの期間は6ヶ月以上はかかります。
東京23区で利子補給制度がある地域と補助割合
東京都23区でマル経融資の利子補給制度があるエリアと補助割合はこちらです。
地区 | 補助割合 |
中央区 | 支払利子の30%(1円未満切り捨て) |
港区 | 支払利子の30% |
新宿区 | 支払利子の30% |
品川区 | 支払利子の30% |
大田区 | 支払利子の30% |
世田谷区 | 支払利子の30% |
中野区 | 支払利子の50% |
板橋区 | 支払利子の30% |
練馬区 | 支払利子の40% |
江東区 | 支払利子の30% |
墨田区 | 支払利子の30% |
足立区 | 支払利子の30% |
葛飾区 | 支払利子の50% |
だいたいの区が支払利息の30%の利子補給をしていますが、練馬区は40%、中野区と葛飾区は50%の利息を補助してくれます。
ほとんどの地区で補助対象期間は融資実行から3年間とされています。これでどれだけの金利負担が減るのでしょうか?
例えば、
現在の金利1.21%で2000万円借入した場合、
- 利子補給なし 3年間の負担額 373,083円
- 利子補給あり 3年間の負担額 186,541円
なんと18万円強の金額が自己負担せずに済みます。利子補給があるエリアで融資を検討している方は活用しない手はないと思います。
マル経融資はなぜこんなに利子が安い?デメリットはある?
マル経融資は、商工会・商工会議所の経営指導員が会社の財務内容を把握し、倒産・貸し倒れリスクが低い企業を公庫に紹介するため、超低金利での融資が可能です。
内容は異なりますが、保証協会の保証付き融資の公庫版ようなイメージが近いと思います。
【関連記事】信用保証協会の保証付融資とは?金利や審査の流れを解説
こんなマル経融資ですが、デメリットもあります。それは、「創業時期には利用できない」という点です。
前述した通り、マル経融資は1年以上の事業実績がある人が対象になりますので、これから創業・起業を考えている方には不向きでしょう。
また、6ヶ月以上の経営指導を受ける必要があることから、今すぐに借りたいという緊急ニーズには合わない制度ともいえます。
マル経融資は創業1年未満は利用不可!起業時に使える融資制度は?
マル経融資は、創業から1年以上経過している事業者ではないと活用できません。
創業1年未満の事業者が使える日本政策金融公庫の融資制度は以下の2つです。
①新創業融資制度
新創業融資では、無担保・無保証で最大3,000万円の融資が受けられます。ただし、1,000万円を超える貸付については、公庫の支店決裁ではなく本店決裁になり、審査通過率が極めて低くなります。
そのため、実質的な限度額は、最大1,000万円と認識しておきましょう。
【関連記事】日本政策金融公庫の新創業融資制度を通すコツや条件を解説
②中小企業経営力強化資金
中小企業強化資金は、無担保・無保証で最大2,000万円の融資が受けられる制度です。こちらは2000万円まで支店決裁なので、新創業融資と比べると融資額は伸びやすい傾向があります。
ただし、申請にあたっては認定支援機関のサポートが必須となっています。詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
【関連記事】日本政策金融公庫の中小企業経営力強化資金とは?メリット・デメリットと申請条件
マル経融資まとめ
マル経融資は既存の借入とは別枠で融資を受けられるために、まずは創業期に別制度で借入を行い、その後、マル経融資を活用すると良いでしょう。
おすすめの活用方法は、創業期に中小企業経営力強化資金で借入を行い、1年経過したタイミングでマル経融資で資金調達を行う方法です。
また、日本政策金融公庫には、借入をしても財務上負債とならず、資本にできる「資本性ローン」という制度も存在します。
いざという時に資金調達の手法は知っておくにこしたことはありません。気になる方は下記で詳しく説明していますのでご覧ください。
【関連記事】資本性ローンとは?メリット・デメリットや利用条件を紹介